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大阪地方裁判所 昭和43年(わ)2191号 判決 1971年10月08日

主文

被告人西浦隆男を懲役六月に、

被告人立崎好道、同河元昇を各懲役五月に、

被告人矢谷暢一郎を懲役四月に、

被告人北野卓也を懲役三月に、

被告人吉見学、同大草靖宏、同中島慎介を各懲役二月に、

被告人西田政雄を罰金二〇、〇〇〇円に、

被告人国原惇一郎を罰金一五、〇〇〇円に、

被告人小豆沢澄夫、同吉国恒雄を各罰金一〇、〇〇〇円に、

被告人田中美樹、同藤岡弘を各罰金五、〇〇〇円に、

それぞれ処する。

被告人西浦、同立崎、同河元、同矢谷、同北野、同吉見、同大草、同中島に対して、この裁判確定の日からいずれも一年間それぞれその刑の執行を猶予する。

被告人西田、同国原、同小豆沢、同吉国、同田中、同藤岡がその罰金を完納できないときは、いずれも金一、〇〇〇円を一日に換算した期間同被告人らをそれぞれ労役場に留置する。

被告人小畠純治は無罪。

被告人吉見に対する公訴事実中、昭和二三年大阪市条例第七七号「行進及び集団示威運動に関する条例」(以下大阪市条例と略称する)違反の点について、同被告人は無罪。

被告人藤岡に対する昭和四三年八月七日付起訴状記載の公訴事実中、大阪市条例違反の点について、同被告人は無罪。

被告人河元に対する公訴事実中、公務執行妨害の点について、同被告人は無罪。

被告人吉国に対する公訴事実中、道路交通法違反の点について、同被告人は無罪。

理由

(罪となるべき事実)

第一  被告人西浦隆男は、昭和四三年六月一五日に行なわれたベトナム反戦全国行動大阪実行委員会主催の大阪市東区大手前公園から本町四丁目を経て難波球場に至る集団示威行進に参加したものであるが、学生約二〇〇名と共謀のうえ、同日午後七時三二分ごろ大阪市東区本町四丁目四六番地伊藤万株式会社先交差点南側において、右学生らのデモ隊か道路交通法に違反して御堂筋疾行車道上に出て行進しようとするのを制止する任務に従事していた大阪府警察機動隊第一四中隊長城戸崎実警部ら指揮下の多数の警察官に対し、前後三、四回にわたり、右約二〇〇名の学生とともに六列縦隊位に隊列を整え、竹竿を支えにしてスクラムを組み、ヘルメットを冠つた頭を下げて同警察官の隊列に体当たりをし、もつて右警察官の前記職務の執行を妨害した。

第二  被告人吉見学は、昭和四三年六月二八日、いわゆる六・二八アスパック粉砕御堂筋デモ実行委員会主催のもとに、大阪市西区靱公園から同区岡崎橋交差点、同市東区横堀町四丁目交差点および同区本町四丁目交差点を経て御堂筋を南下し、同市浪速区大阪府立体育館前に向つて行なわれた集団示威行進に参加したものであるが、約八〇名の学生と共謀のうえ、同日午後七時二〇分ころ、前記本町四丁目交差点南西角附近において、右学生らのデモ隊が道路交通法により大阪府西警察署長の付した道路使用の許可条件に反して御堂筋車道上に出て行進しようとするのを制止する任務に従事していた大阪府警察本部警備部隊第二四中隊長森下澄警部指揮下の多数の警察官に対し、前後二回にわたり、右約八〇名の学生らとともに約五列従隊に隊列を整え、竹竿を支えにしてスクラムを組み、ヘルメットを冠つた頭を下げて同警察官の隊列に体当たりをし、もつて右警察官の前記職務の執行を妨害した。

第三  一、被告人立崎好道、同西浦隆男、同矢谷暢一郎、同河元昇は、望月上史ほか三名と共謀のうえ、いわゆる六・二八アスパック粉砕御堂筋デモ実行委員会主催の集団示威行進の警備に出動する大阪府警察本部警備部隊の警察官が被告人らの示威行進を規制しようとした場合には、その身体に対し、学生多数と共同して害を加える目的をもつて、昭和四三年六月二八日午後六時一〇分ごろ、大阪市住吉区杉本町四五九番地大阪市立大学構内に、角材約一八〇本(長さ約二米、4.5糎角。昭和四五年押第六〇〇号の一および二はその一部)および投石用の多数の石塊などを準備し、学生約七〇〇名を集合させた。

二、被告人中島慎介は、被告人立崎らの右犯行に際し、同日右犯行の用に供するため右角材および石塊を京都市上京区所在の同志社大学から右大阪市立大学構内に運搬し、もつて被告人立崎らの右兇器準備結集行為を容易ならしめて幇助した。

第四  被告人小豆沢澄夫、同西田政雄、同国原惇一郎、同吉国恒雄は、昭和四三年六月二八日午後六時一〇分ごろ、いわゆる六・二八アスパック粉砕御堂筋デモ実行委員会主催の集団示威行進に参加するため、大阪市住吉区杉本町四五九番地大阪市立大学に学生約七〇〇名とともに集合した際、同所において、右集団示威行進の警備に出動する大阪府警察本部警備部隊の警察官が被告人らの示威運動を規制しようとした場合には、その身体に対し、共同して害を加える目的をもつて、右多数の学生とともに、角材約一八〇本(長さ約2米、4.5糎角。昭和四五年押第六〇〇号の一および二はその一部)および投石用の多数の石塊などを携帯準備し、もつて兇器を準備して集合した。

第五  被告人立崎好道、同矢谷暢一郎、同河元昇、同西田政雄、同国原惇一郎は、大阪府南警察署長の許可を受けないで、昭和四六年六月二八日午後六時五三分ごろから同七時八分ごろまでの間、大阪市南区難波新地六番町一二番地高島屋百貨店前から同区難波新地四番町五番地安田信託銀行難波支店前戎橋交差点に至る間の御堂筋疾行車道上において、約三五〇名の学生とともに、道路一ぱいに拡がつて行進する等し、一般交通に著しい影響をおよぼすような集団示威行進を行ない、もつて無許可で右道路を使用した。

第六  被告人立崎好道、同矢谷暢一郎は、ほか多数の学生と共謀のうえ、昭和四三年六月二八日午後七時九分ごろ、大阪市南区難波新地六番町一二番地高島屋百貨店前道路上において、前示第五の違法行動を制止する任務に従事していた大阪府警察本部警備部隊第一六大隊長加地重天警視指揮下の警察官に対し、角材で殴りかかり、石を投げつける等の暴行を加え、もつて右警察官の前記職務の執行を妨害した。

第七  被告人大草靖宏は、昭和四三年六月二八日、いわゆる六・二八アスパック粉砕御堂筋デモ実行委員会主催の集団示威行進が行なわれた際、約五〇名の学生らと共謀のうえ、同日午後七時一八分ごろ、大阪市南区難波新地一番町二四番地先路上において、警備中の大阪府警察本部警備部隊に角材で殴りかかり投石する等の違法行動をなした多数の学生らを規制検挙する任務に従事していた同警備部隊第三中隊中谷聡警部指揮下の警察官に対し、石を投げつけて暴行を加え、もつて右警察官の前記職務の執行を執行を妨害した。

第八  被告人西田政雄は、学生約一〇〇名と共謀のうえ、大阪府南警察署長の許可を受けないで、昭和四三年六月二八日午後七時五五分ごろから同八時ごろまでの間、大阪市南区難波新地五番町四六番地「天徳」南側から同町五七番地富士銀行難波支店前に至る間の車道上において、一般交通に著しい影響をおよぼすような集団示威行進を行ない、もつて無許可で右道路を使用した。

第九  被告人立崎好道は、昭和四三年六月二八日、いわゆる六・二八アスパック粉砕御堂筋デモ実行委員会主催の集団示威行進が行なわれた際、ほか約五〇名の学生らと共謀のうえ、同日午後八時一〇分ごろ、大阪市南区難波新地五番町七二番地附近路上において、警備中の大阪府警察本部警備部隊に投石する等の違法行動をなした多数の学生らを規制検挙する任務に従事していた同警備部隊第一大隊長加地重夫警視指揮下の警察官に対し、石を投げつけて暴行を加え、もつて右警察官の前記職務の執行を妨害した。

第一〇  被告人北野卓也は、昭和四三年六月二八日、いわゆる六・二八アスパック粉砕御堂筋デモ実行委員会主催の集団示威行進が行なわれた際、ほか約五〇名の学生らと共謀のうえ、同日午後八時一五分ごろ、大阪市南区難波新地五番町七二番地附近路上において、警備中の大阪府警察本部警備部隊に投石する等の違法行動をなした多数の学生らを規制検挙する任務に従事して同警備部隊第一大隊長加地重夫警視指揮下の警察官に対し、右を投げつけて暴行を加え、もつて右警察官の前記職務の執行を妨害した。

第一一  被告人田中美樹、同藤岡弘は、ほか約三〇名の学生らと共謀のうえ、大阪府南警察署長の許可を受けないで、昭和四三年六月二八日午後八時三〇分ごろから同八時四〇分ごろまでの間、大阪市難波新地五番町四六番地「天徳」南側附近車道上において、一般交通に著しい影響をおよぼすような集団示威行進を行ない、もつて無許可で右道路を使用した。

(証拠の標目)<省略>

(弁護人の主張に対する判断)

第一道路交通法違反について

<省略>

第二公務執行妨害罪について

<省略>

第三兇器準備集合ならびに結集罪について

<前略>

(被告人藤岡弘、同小畠純治、同吉見学、同西田政雄、同田中美樹に対する各大阪市条例違反の点についての無罪理由)

一、各被告人に対する公訴事実は、つぎのとおりである。

(一) 被告人藤岡弘は、昭和四三年六月一五日、ベトナム反戦全国行動大阪実行委員会主催のもとに、ベトナム反戦を標榜して、大阪市東区馬場町大手前公園から同区本町四丁目交差点を経て御堂筋を南下し、同市浪速区蔵前町大阪球場に向けて行なわれた集団示威行進に参加したものであるが、ほか約二〇〇名と共謀のうえ、右集団示威行進には大阪府公安委員会からジグザグ行進、いわゆるフランス式デモを行なわないこと等の許可条件が付せられていたにもかかわらず、右許可条件に違反して、右約二〇〇名とともに、

(1) 同日午後六時二五分ごろ同市東区馬場町交差点から同区大手前町六番地大阪警察会館前に至る間の車道上においてジグザグ行進を行ない、

(2) 同日午後六時二九分ごろ、右警察会館前から同区谷町三丁目四三番地松井被服産業株式会社附近に至る間、および同午後六時三四分ごろ同区内本町一丁目一番地附近から同一五番地附近に至る間の各車道上において、相互に手をつなぎ車道中央線を越えてひろがりいわゆるフランス式デモの隊型で行進を行ない、

もつて右許可条件に従わなかつたものである。

(二) 被告人小畠純治は、昭和四三年六月二八日、六・二八アスパック粉砕御堂筋デモ実行委員会主催のもとに、アスパック粉砕を標榜し、大阪市西区靱公園から同区靱本町三丁目九〇番地先岡崎橋交差点、同市東区本町四丁目交差点を経て御堂筋を南下し、同市浪速区大阪府立体育館前に向つて行なわれた集団示威行進に参加したものであるが、ほか多数の学生等と共謀のうえ、右集団示威行進には、大阪府公安委員会から行進は平穏に秩序正しく行ないジグジグ行進を行なわないこと等の許可条件が付せられていたにもかかわらず、右許可条件に違反して、同日午後七時〇分ごろから同七時二分ごろまでの間、前記靱公園西出口から岡崎橋交差点にいたる車道上において、府高連等と記載したヘルメット着用の学生等約八〇名の隊列の先頭列外に位置して、笛を吹きこれを誘導しながら、右学生等八〇名とともにジグザグ行進を行ない、もつて右許可条件に従わなかつたものである。

(三) 被告人吉見学は、昭和四三年六月二八日、六・二八アスパック粉砕御堂筋デモ実行委員会主催のもとに、アスパック粉砕を標榜し、大阪市西区靱公園から同区岡崎橋交差点、同市東区横堀四丁目交差点および同区本町四丁目交差点を経て御堂筋を南下し、同市浪速区大阪府立体育館前に向つて行なわれた集団示威行進に参加したものであるが、ほか多数の学生と共謀のうえ、右集団示威行進には、大阪府公安委員会から、行進は平穏に秩序正しく行ない、ジグザグ行進を行なわないこと等の許可条件が付せられていたにもかかわらず、右許可条件に違反して、同日午後七時一四分ごろから同七時一八分ごろまでの間、前記横堀四丁目交差点附近からの本町四丁目交差点南西角附近までの車道上において、右行進に参加した革マル派等と記載したヘルメット着用の学生等約八〇名の先頭列外に位置し、竹竿を支えにして、スクラムを組んだ隊列に対面して笛を吹き、これを誘導しながら右学生等約八〇名位とともにジグザグ行進を行ない、もつて許可条件に従わなかつたものである。

(四) 被告人西田政雄は、大阪府公安委員会の許可を受けないで、昭和四三年六月二八日午後七時五五分ごろから同八時ころまでの間、同区難波新地五番町四六番地「天徳」南側から同同町五七番地富士銀行難波支店に至る間の車道上において、学生約一〇〇名の隊列外先頭に位置し、これを誘導してジグザグ行進を行ない、もつて無許可集団示威行進を指揮したものである。

(五) 被告人田中美樹、同藤岡弘は、昭和四三年六月二八日、六・二八アスパック粉砕御堂筋デモ実行委員会主催の集団示威行進が行なわれた際、ほか一名と共謀のうえ、大阪府公安委員会の許可を受けないで、同日午後八時三〇分ころから同八時四〇分ころまでの間、大阪市南区難波新地五番町四六番地「天徳」南附近車道上において、学生約三〇名の隊列外先頭に位置してこれを誘導し、東から西に向け約三〇メートルの間反覆してジグザグ行進を行ない、もつて無許可集団示威行進を指揮したものである。

二、当裁判所は、審理の結果、以下の各証拠によつて右各被告人に対する公訴事実記載の各事実をすべて認めることができる。<中略>

三、当裁判所は、右のように各被告人に対する公訴事実記載の事実はすべてこれを認めるものであるが、被告人らの右各所為は、いずれもいわゆる可罰的違法性がなく、大阪市条例五条の構成要件に当らないものと判断するのであり、以下にその理由を説明する。

すでに道路交通法違反の点に関する弁護人の主張についての判断で示したように、集団示威運動は、道路における交通の安全と円滑を図る見地から制定された道路交通法およびその委任立法として制定された昭和三五年大阪府公安委員会規則一五条三号により、道路使用に関して規制の対象とされていることは明らかであり、一方、大阪市条例も集団示威運動を規制の対象としているのであるから、集団示威運動という同一の対象として、国の法律である道路交通法と地方公共団体の条例である大阪市条例の両者が併存規制していることになる。ところで、大阪市条例違反の法定刑は一年以下の懲役又は五万円以下の罰金である(同条例五条)のに対し、道路交通法の道路使用に関する規制違反の法定刑は三月以下の懲役又は三万円以下の罰金であり(同法一一九条一項一二号)、大阪市条例違反の法定刑がはるかに重いことは改めて指摘するまでもなく、そもそも条例は法令に違反しない場合でなければ制定することができないのであるから、「道路における危険を防止し、その他交通の安全と円滑を図る」という道路交通法と同一の趣旨目的で、大阪市条例が集団示威運動に規制を加えることが許されないのはいうをまたないところであり、そのような規制は地方自治法一四条一項に違反して無効であるといわねばならない。従つて、大阪市条例が道路を使用する集団示威運動を規制する趣旨目的は、道路交通法のそれとは別個のもの、すなわち、集団示威運動そのものが一般公衆の安全を侵害するおそれの明白な場合に、一般公衆の安全を保持し地方公共の秩序を維持することにあると解さねばならない。このことは、大阪市条例四条一項が「集団示威運動が公共の安全に差迫つた危険を及ぼすことが明らかである場合の外は、これを許可しなければならない」とし、また同条三項が許可に付することのできる条件について、「群集の無秩序、又は暴行から一般公衆を保護するため、公安委員会が必要と認める適当なもの」と規定していることからも、明らかに認められるところである。

右のように考えるべきものとすれば、大阪市条例一条で許可を要するものとされる集団示威運動とは、およそ集団示威運動と称しうるものはすべてこれに該当するとみるべきではなく、当該集団の規模、集団行動の時間、場所その他諸般の情況からみて、地方公共の秩序を乱し、一般公衆に対し直接危険のおよぶことが明らかな集団示威運動をいうものと解すべきであり、単に道路における交通の安全と円滑を阻害するおそれがあるにすぎないようなものは、同条が規制の対象として予定している集団示威運動には含まれないというべきである。

検察官は、無許可の集団示威運動は、公安委員会に事前の検討の機会を与えないという点に違法性の根拠があり、従つて大阪市条例にいう集団示威運動は公共の安全に対し具体的な危険の発生を要するものではない旨主張するが、そのような見解は、大阪市条例四条の規定の文言からみても相当でないのみならず、現実に行なわれた集団示威運動が公共の安全に何らの危険をおよぼさず、全く平穏に行なわれた場合にも、単に許可申請の手続をしなかつたことを理由に重い刑罰を科することを認める結果となり、表現の自由を保障した憲法二一条に照らし到底採用できるところでない。

また、大阪市条例四条三項によつて付される条件は、その条件を付することなく集団示威運動を許すならば、一般公衆に直接危険をおよぼすおそれが明らかに認められる場合に限り、その限度において付しうるにすぎないものと解すべきであり、それ故右条件によつて禁止しうる行為は、集団示威運動の行なわれる際、群集の無秩序又は暴行に基因して一般公衆に対し直接危険がおよぶような行為にとどまるのである。

(なお、集団示威運動が道路を使用するために生ずるであろう道路の危険を防止し、交通の安全円滑を図るため、例えば道路交通法七六条四項各号のほか、所轄警察署長が道路使用許可に際し、同法七七条三項にもとづいて付する条件によつて規制しうる場合があるが、それはここでは別問題である。)

本件では、被告人らがジグザグ行進をした点といわゆるフランス式デモ行進をした点が許可条件に違反するとされている。ジグザグ行進は、左右の振幅をもつて蛇行進することをいい、フランス式デモ行進は、道路の大幅な部分を占拠して行進する形態をいうのであるが、これらはいずれもその行進の態様に照らし、人的、時間的あるいは場所的関係において、それらの形態を伴わないデモ行進が道路を通過する場合に比較し、本来は回避しえたより大きな交通の障害を引き起こす可能性が存することは否定できない。

しかしながら、ジグザグ行進やフランス式デモ行進をすれば、すべて右のような状態に達するものとはいえないのであつて、右のような状態に至らないものも存在することはもとより明らかである。そうすれば、大阪市条例が可罰的なものとしているジグザグ行進やフランス式デモ行進は、およそジグザグ行進、フランス式デモ行進と称しうるものはすべてこれに該当するとみるべきではなく、一般公衆に対して直接危害をおよぼすおそれの明らかなジグザグ行進、フランス式デモ行進をいうものと制限的に解釈するのが相当であり、単に道路における交通の安全と円滑を阻害するおそれがあるにすぎないようなものは、これに含まれないというべきである。

検察官は、本件条件違反罪は抽象的危険犯であり、ジグザク行進、フランス式デモ行進をすれば、一般公衆に対する具体的危険の発生の有無とは関係なく、直ちに条件違反罪が成立すると主張するが、そのような見解は、大阪市条例四条の規定の趣旨にそわないのみならず、一般公衆に対し具体的な危険を伴わない比較的平穏な態様のこの種デモ行進に対しても、条件違反を理由に警察力による実力規制、逮捕等の即時強制を肯認することになり、さらには前示の重い刑罰を科しうることになるのであるが、このような解釈は、あまりにも取締りの便宜に偏したものというべく、憲法で保障された表現の自由をふみにじる結果になりかねないものといわねばならない。ことに、大阪市においては、集団示威行進が許可される場合、ほとんどすべてに条件が付されている条例の運用状況に鑑みると、ますますその感を深くするのである。

一般公衆に対して直接危険をおよぼすおそれがあるか否かは、結局個々具体的な場合について判断されるべきほかないが、そもそも危険とは実害発生の可能性をいうのであり、具体的危険犯においては、行為の具体的な態様、情況等から、危険の有無を判断しなければならないのであつて、単に実害発生の蓋然性があるというだけで具体的危険があるとすることはできない。そして、くりかえしいうように、集団示威運動は憲法によつて保障された表現の自由に含まれるものであるから、これに対する制約は、他の人権、権利との間の矛盾、衝突を調整する原理による制約、換言すれば、権利に内在する最少限度の制約のほかは許されないのであり、またジグザグ行進、フランス式デモ行進にしても、それは示威の一手段として行なわれるのが通常であつて、もとより一般公衆に対し危害をおよぼすことを目的とするものではなく、それは集団示威運動にとつて不可欠のものではないとしても、またそれによつて交通の障害が考えられるにしても、それが直ちに一般公衆に対し危険をおよぼすものとして、前示のような重い刑罰による制裁を科せられるものとするのは、きわめて不当な解釈であるといわねばならない。

四、右に示した当裁判所の見解をもとにして、被告人らの各所為が大阪市条例に違反するものか否かをつぎに個別的に検討する。

(一) 被告人藤岡弘の前示一(一)記載の各公訴事実について

検察官提出の証拠により本件各公訴事実記載の事実はこれを認めることができるのであるが、さらに詳細に検討すると、被告人は約二〇〇名の学生と共に六列位の縦隊を組み(梯団の長さ約三〇米)(1)幅員約16.2米の車道の南側半分にわたる振幅のジグザグ行進を約一五〇米、時間にして約四分間にわたつて行ない、(2)六列縦隊のデモ隊員が両手をのばして西進車道幅員の三分の二を占めるフランス式デモ行進を約一五〇米にわたり、時間にして約三、四分間行ない、さらに続いて同様車道中央線に達するフランス式デモ行進を約一一〇米にわたり行なつたが、いずれも機動隊に規制されて特段の混乱もなく終つたものであり、その間西進車両の進行は不能となり、東進車両は徐行を余儀なくされ、付近の交通は著しく停滞したことが認められるが、ジグザグ行進やフランス式デモ行進を行なうことにより右集団が指揮者の統制を離れて無秩序に陥つたり、通行人、通行車両および一般公衆に危険ないし危害がおよぶおそれのあるような状態が現出したものとは認められない。

そうすると、右のジグザグ行進およびフランス式デモ行進は、いずれも集団がそのような行進方法をとらないで行進した場合にくらべ、道路交通の障害になつたことは明らかであるけれども、群集の無秩序又は暴行により一般公衆に対し直接危険がおよぶおそれのある状態に達したものとは認められない。

(二) 被告人小畠純治の前示一(二)記載の公訴事実について

検察官提出の証拠により本件公訴事実記載の事実はこれを認めることができるのであるが、さらに詳細に検討すると、被告人は約八〇名の学生とともに六列位の縦隊でスクラムを組み、幅員約一六米の車道を大体一ぱいにわたる振幅のジグザグ行進を三回位行ない、ついで東側車道一ぱいにわたるジグザグ行進を二回位行なつたものであるが、その間距離は約一一〇米、時間は約二分間であり、被告人らの右所為により附近の交通が停滞したことは認められるが、右集団が指揮者の統制を離れて無秩序に陥つたり、通行人、通行車両および一般公衆に接触する等特に危険のおよぶようなおそれのある状態のものであつたとは認められない。

そうすると、右のジグザグ行進は道路交通の障害になつたことは明らかであるけれども、群集の無秩序又は暴行により一般公衆に対し直接危険がおよぶようなおそれのある状態に達したものとは認められない。

(三) 被告人吉見学に対する前示一(三)記載の公訴事実について

検察官提出の証拠により本件公訴事実記載はこれを認めることができるのであるか、さらに詳細に検討すると、被告人は約八〇名の学生とともに六列位の縦隊でスクラムを組み、最前列は竹竿を横に支えとして約一二〇米の距離を片側車道の三分の二ぐらいの振幅でジグザグ行進をし、時間は約四分間であり、被告人らの右所為により東進車両の進行が著しく阻害されたことは認められるが、右集団の行進が指揮者の統制を離れて無秩序に陥つたり、通行人、通行車両および一般公衆に接触する等特に危険がおよぶようなおそれのある状態にあつたとは認められない。

検察官は、車両の通行が停滞したため自動車運転手の中には「早く通さんか」等といつていた者があること、本件公訴事実記載の行進が行われたのち、本町四丁目において右デモの集団が警察機動隊の阻止線に突入した事態に発展したこと等から、本件条件違反の所為は一般公衆に対し具体的な危険があつたと主張するが、運転手の右の言葉は交通の停滞に対する反感の表明にすぎないとみられ、またその後、本町四丁目で機動隊に突き当つたことは、他の法律による処罰の対象となるのは格別、本条例による規制の対象外にあるものと解せられ、現に当裁判所は右突入行為を公務執行妨害罪として処断しているのであり、かかるいわば結果としての行為を本件デモの性格づけに用いてはならないものである。

(四) 被告人西田政雄に対する前示一(四)記載の公訴事実について

検察官提出の証拠により本件公訴事実記載の事実はこれを認めることができるのであるが、さらに詳細に検討すると、被告人は「天徳」南側の車道上で、機動隊の規制を受けて逃走した学生のうち次第に集まつてきた約一〇〇名とともに六列縦隊の隊列を組み、その指揮をして、同所から高島屋交差点、御堂筋車道上を西進して富士銀行難波支店に至るまでの間約一五〇米の距離を約五分間にわたりジグザグ行進をしたのであるが、先頭は角材を支えにして隊列を組み、ほとんど全員ヘルメットを着用し、中には覆面をしている者、隊列外にいて角材を所持している者が二、三名おり、一般群集が歩道および車道にまであふれ、現場付近一帯はかなり混乱した状況であつたことが認められる。しかし、ヘルメットを着用し覆面をするということは、一般通行人に対して多少の奇異感や威圧感を与えることはあるとしても、それはいわば集団示威行進の本質的要素というべく、ことさらそれを問題にする必要はないのみならず、少なくとも一般公衆に対する具体的危険とは関係のないことというべきである。また角材を所持している者がいた点であるが、その人数とてもわずか二、三名にすぎず、しかもそれはデモ行進中にあつて集団の気勢をあげ意気軒昂たることを示す手段の一つとしてなされたものと認められ、その角材を振つて通行人または一般公衆に暴力を振うというような状況はみられず、通行人ないし一般公衆に危害を加える状況でなつたことはもとより、公共の安全に差迫つた危険をおよぼす状況であつたとは認められない。群集が歩道および車道にまであふれていたこことは、群集が自ら興味を示して見物していたということもいえるのであつて、集団示威運動が公衆に対して危険をおよぼすか否かとは直接結びつくものではなく、かえつて危険や不安を感じなかつたからこそ見物していたとさえいうこともできるのである。以上の点および本件デモが偶発的になされたものであり時間および距離も比較的短いものであることを考慮すれば、本件集団示威運動が公共の安全に差迫つた危険をおよぼし、一般公衆に対し直接危険がおよぶことが明らかな集団示威運動とは認められない。

(五) 被告人田中美樹、同藤岡弘の前示一(五)記載の公訴事実について

検察官提出の証拠により本件公訴事実記載の事実はこれを認めることができるのであるが、さらに詳細に検討すると、同日午後八時二〇分ごろ高島屋百貨店前御堂筋車道上で機動隊の規制を受けて逃走した学生集団のうち、たまたま「天徳」南側付近車道上に集合した約三〇名の学生らが無許可で同三〇分ごろ四、五列の縦隊を組んで右車道上を西方に向つて二、三回ジグザグ行進をしたものであり、距離にして約三〇米の間、時間にして約一〇分間程度のものにすぎず、また証拠によると、右車道東側を含め現場附近には相当数の群集が集まつていたが、特に多数のニュース取材班のカメラマンと思われる者がデモ集団にほとんど接着して車道上を悠然と歩いていることが認められ、緊迫した状況であつたとは認められず、右ジグザグ行進はおりから右デモ隊の進路前方車道上で東向きに南北にわたる阻止線をはつていた機動隊に向つて前進したとはいえ、それはいわば気勢を示すべく進んだものであつて、群集に対し危害のおよぶような特段の状況も認められず、右デモ行進が無許可であるとはいえ、公共の安全に差迫つた危険をおよぼし、一般公衆に対し直接危険がおよぶことが明らかな集団示威運動とは認められない。

五、よつて、被告人らの本件大阪市条例違反の各行為は、被告人藤岡弘(一の(一)記載の公訴事実)、同小畠純治、同吉見学については同条例五条、四条三項の構成要件に、被告人西田政雄、同田中美樹、同藤岡弘(一の(五)記載の公訴事実)については同条例五条、一条の構成要件に、いずれも該当するものということはできず、罪とならないものであるから、同条例五条、四条三項の条件違反の罪については刑事訴訟法三三六条により被告人小畠、同吉見に対し無罪の言渡をし、同条例五条、一条違反の点については判示道路交通法違反の罪と観念的競合の関係にあるものとして起訴されたものであるから、被告人西田、同田中、同藤岡に対しては主文において特に無罪の言渡をしない。

弁護人は、大阪市条例は、憲法二一条、三一条に違反し無効なものであるから、大阪市条例を適用して被告人らを処罰することは許されないと主張するが、前示のとおり被告人らの所為はいずれも同条例に違反したものとは認められず、同条例を適用することはできないのであるから、同条例の適用のあることを前提とする弁護人の憲法違反の主張は、その前提を欠くこととなるので、とくに判断を加える必要はない。

(法令の適用)<省略>

(児島武雄 河上元康 森野俊彦)

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